山本有三『欲生』など。

 元旦に年賀状とともに届いたのが、以下の本で、不穏の気配あり。

 岡田誠三『自分人間』(中央公論社・昭和52年) 300円

 第19回直木賞を受賞(1944年上半期)した作家による父・岡田播陽の評伝。大阪の奇人と言われる播陽だが、どう言っていいのか、生活能力のない小心者で、妻・玉の「大風に灰を撒いたようなお人」というのがさすがに的を得た評言で、家族や使用人は大変だったようだ。

 

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 山本有三『欲生』(叢文閣・大正9年) 函 600円

 

 状態良。戯曲集である。「嬰児殺し」を読んでみた。夫を亡くした後、土工として働き家族を支えていた女が、産まれた赤ん坊を殺してしまう話。赤ん坊がいると働けない、自分が働かないと家族は生きていかれない、という追い詰められた状況で、嬰児殺しをしてしまうのだ。現代の日本よりも悲惨な時代だとは思いつつ、この話以上の、赤ん坊や幼子にとっては悲惨な事件、この女とは比較にならない冷酷な親による虐待事件、殺人事件が起こっている今の日本は、いよいよ末法の世だと感じる。